2025/10/09 23:06
業務の効率化も含めてユーザー様からお問合せがあった時にこのブログをご案内する事で回答が出来るように、今後は一定数お問合せを頂く内容はブログの方で記事にしていこうかと思います。
お客様からたまに、フィルター特性やスロープの理論値では正相で繋がるはずなのにスピーカーの極性が逆相の方が繋がりが良く聴こえるのはスピーカーユニット自体の電気的極性が間違ってるのでは無いか?とのお問合せを頂くことがあります。
カーオーディオでは車室内の音響環境は、反射・吸収・距離差の影響が非常に大きく、どんなに理論通りに組んでも無響室での理論値は成立しません。
実際の車内では、取り付けや車室音響特性と物理的なスピーカー配置などがすべてを支配すると言っても過言ではありません。
特に3way構成では中間帯域を担うスコーカーのみ逆相にした方が極性的な正相、逆相だけで見たら帯域のつながりが滑らかになり、音像定位が自然に感じられるケースもあります。
これはスコーカーが上下のユニット(ツイーター・ミッドバス)と両方向で帯域の重なりを持つため、位相の整合点が最もずれやすい帯域を鳴らすスピーカーであることが理由です。
車のダッシュボードやピラーの形状、フロントガラスの傾斜、メーター位置等などにより、左右のスコーカーからリスニングポイント(ドライバーの耳)までの距離・反射経路は非対称で非常に複雑です。
このため、片側の中域が時間軸でわずかに進みすぎたり、そのズレにより打ち消しが起きやすいケースがあります。
結果として、片側だけ逆相にした方がリスニングポイントで聴感上良く感じることもあります。
この様な場合、インパルス応答による測定で左右の波形ピークずれを見ると、片側スコーカーのピークが0.2〜0.4 ms(7〜14 cm相当)程度早く届いていることが多いです。
例えばこのような状況では、電気的に正相のままではリスニング位置で180°近く位相ずれが起こります。
つまり片側を逆相にするとリスニングポイントで揃うという事が起きます。
ただし、片側のみ逆相とする場合は高域、低域の一体感が変わることもあるため、 最終判断は聴感による定位や音場の自然さを重視するか、物理的な取り付け位置等の変更の検討も必要かと思います。
結果的には正相・逆相どちらが正解かはスピーカーの電気的接続による極性では無くリスニング位置での測定や聴感結果で判断する以外ありません。
逆相にしたときに音像定位が自然でつながりが良いなら、それが理論値に反していてもその車両や取り付けでの正解です。
弊社デモカーの場合でも、例えばリアフィルスピーカーは電気的な接続(配線接続)は正相で接続していますが、DSPで逆相設定にした方が帯域全体で見たら聴感上好ましいです。
実際に電気的極性は正相接続の状態でDSPの設定も正相にてリスニング位置でリアフィルのインパルス応答を測定すると、車内特性や取付け向き、位置等の関係で逆相の波形になるので、あえてDSP側で逆相設定にしてリスニング位置で正相となる様にしています。
また、DSPで調整する場合はスロープ(フィルター特性)の影響も大きいです。
クロスオーバーのスロープを急峻にするほど、周波数ごとに遅延量(群遅延)が大きく変化します。
その結果、以前合わせていたタイムアライメント値(以下TA)のままでは音像定位が崩れたり、ボーカルが後ろに下がるように聴こえることがあります。
スロープを変更した際は必ずTAを再測定・再調整することが重要です。
TAに関してもスピーカーまでの距離をメジャーやレーザー距離計等の実測値で設定する方も多いと思いますが、厳密には各スピーカーでボイスコイル位置や振動板形状、エッジ形状、左右の取り付け角度差等の違いにより音の出るポイント(スピーカーの設計的に言うとアコースティックセンター)が異なります。
簡単に言うとユニットから音が実際に放射される位置(音の発生点) = 位相の基準点が各スピーカーごと異なります。
スピーカーまでの物理的距離と実音の到達点が異なるため、距離実測値によるTA値は参考にしかなりませんし、各スピーカーの再生帯域による波長も異なり、実測距離のみではミッドバス、スコーカー、ツイーターのTAが正確に合う事は無いので、結局は距離で設定する場合はTAを聴感で微調整しなければ位相は合わない事が多いです。
位相は難しいですが、どんなにやっても完璧に位相が揃うという事はありませんので、TAは再生周波数帯域一律の時間遅延(再生周波数帯域全体をずらすイメージ)で、位相角調整(DSPに機能がある場合)はクロス付近だけ整えるといったイメージで帯域全体のバランスが良い所を探す調整をすれば音数の多い一体感のある良い感じの音に近付くと思います。